鮎川哲也『鍵孔のない扉』

 2002年4月購入。3年9ヶ月の放置。ピアニストの鈴木重之の妻・久美子の浮気に端を発した殺人事件。被害者は当初浮気相手と思われていたのだが、捜査を進めるにつれて意外な事実が現れる。そして第2の殺人予告、その実行……
 被害者すら二転する冒頭、そして特定できない容疑者と事件の焦点を絞らせずに読者の興味をそそる鮎川の筆運びは達人の域にある。ただ単純にそうするだけでなく、土台がしっかりしているかこその構成になっている点は見逃せない。読者の興味を下手に煽り立てることなく、丹念に捜査の過程を書き綴ることによって作品が成立しているのだ。この創作姿勢は本作のみならず鮎川作品全般に見られることで、丁寧に作り上げられた作品には一読者して非常に好感を受ける。