荻原規子『西の善き魔女Ⅲ 薔薇の名前』

西の善き魔女〈3〉薔薇の名前 (中公文庫)

西の善き魔女〈3〉薔薇の名前 (中公文庫)

 2005年2月購入。11ヶ月の放置。物語はテンポよく前巻の学園編から今度は王宮編へと突入する。田舎の小娘から宮廷の貴婦人へと変わりつつあるフィリエルはこれまでの自分らしい生き方と反しているために違和感を感じるが、それでも新たな人生へと前向きに生きていこうとする。それに対してルーンはこれまでの生き方に固執する。そんな中で起きた宮廷内での重大事件……
 上で書いたように、物語以前のフィリエルの生き方と以降のそれとの違い、そしてどちらの生き方を自分が望んでいるのか、という葛藤に対してフィリエル自身が一つの結論を導き出すことなる。その選択によってこのシリーズが王宮を舞台として華麗でありながらも、しかし陰では陰謀劇が繰り広げられるという暗さを持った王位継承争いに主眼を当てた物語になるか、あるいはそれら従来のヒロイック・ファンタジーとしては王道である部分を捨てた一組の少年少女の愛を主軸においたビルドゥングス・ロマンになるかが決定する。まさに物語のターニングポイントとなる巻だ。なお後者がストーリーの主幹となった場合に、セカイ系の文脈で読みとれるかどうかは結末を読むまでは判断しかねるところだ。