町田康『へらへらぼっちゃん』

へらへらぼっちゃん (講談社文庫)

へらへらぼっちゃん (講談社文庫)

 2003年5月購入。2年8ヶ月の放置。ただひたすら飲んで飲んで飲んだくれてテレビで時代劇を見てその合間にまた飲んで……かような生活を綴る町田康のエッセイ集。そのダメ人間ぶりに思わず笑ってしまったが、いわゆる飲んだくれの発想は特におかしい。「酔った状態で人に会わなくいけなくなった。緊張感を取り戻すためにビールを飲む」というロジックとか、「晩酌をやめるには朝から飲む」とか、うんうんわかるよその気持ちなどと思っている自分が少々怖くなる。しかもそんなことを語る町田節とでもいおうか、その軽妙な文体が素晴らしい。
 このエッセイに限らず一連の作風から町田康無頼派の系譜に位置づけられるがいわゆる昔の無頼派とは決定的な違いがある。それは家庭崩壊とは無縁にある点だ。ひねもす時代劇を見てひたすら飲んだくれているというのに、妻は家を出て行くこともないし文句の一つもたれない。これは妻が従順というよりは、そんな生活でもなにげに仕事をこなしている、すなわち生活費をきっちり納めているからだろう。平成の無頼派の形とはそういうものだ。