桜庭一樹『ブルースカイ』

ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)

ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)

 2005年10月購入。2ヶ月の放置。桜庭一樹といえば少女を扱う小説を書く作家だ。本作においてもやはり少女を扱っているのだが、私が読んだ限りでのこれまで発表した作品とは扱い方が大きく異なる。
 これまで諸作品は少女自身の生き方を描いているのに対し、『ブルースカイ』では少女そのもの、少女とは何か?というテーマを語ることにすべてを費やしている。したがって、主人公の少女の生き方自体はさほど言及されず、その代わりに少女という概念そのものを明確化させようとする。
 そのために用いられた舞台が過去=少女という概念が存在しない世界=少女誕生以前、現在=少女という概念が存在する世界=少女誕生以後、未来=少女という存在がなくなった世界=少女滅亡後という3つの時代だ。これによって現代こそが少女が存在しうる最適の時代であることを著した。
 このように少女にふさわしい時代はいつなのかということに言及したのは、本書が著者自身の初本格SFレーベル作品になったことが関係しているはずだ。いわゆるタイムスリップというSFガジェットを導入することによって時代による比較が容易になったのだから。
 また、主人公が「世界とつながる」というキーワードを頻繁に用いるが、本作はまさに過去=少女誕生以前、現在=少女誕生以後、未来=少女滅亡後という3つの「世界とつながる」物語になっている。
 少女を扱うという意味では従来の桜庭作品と同様のものなのだが、これは作者の新境地といってもよいであろう。