柄刀一『奇蹟審問官アーサー 神の手の不可能殺人』

奇蹟審問官アーサー―神の手の不可能殺人 (講談社ノベルス)

奇蹟審問官アーサー―神の手の不可能殺人 (講談社ノベルス)

 2002年4月購入。3年半以上の放置。火事による焼死を免れたため現代の聖者”十二使徒”と呼ばれるようになった者たちが、不可能状況下で殺されていく。密室での刺殺、空中での銃による射殺、密室での撲殺、探偵の眼前で起きた見えざる何物かによる扼殺。そしてこれらの死体は神に召されてしまったかのごとく、消失してしまう。一連の事件ははたして奇蹟なのか?

 魅力的な謎をこれでもかとぶち込み、きれいに解決させる手際は柄刀作品の最大の魅力で、その魅力は本作でもきっちりと味わえる。それだけでもおなかいっぱいだが、さらなる読みどころは二つの意味での「神の否定」である。
 ひとつは神の起こした奇蹟としか思えない一連の事件を、探偵による謎解きによって、人為的なものと自然のいたずらが混在したいわば人知によって説明可能のレベルにまで解体してしまうこと。
 そしてもうひとつはこれらの事件の引き金となったのが、まさに「神の奇蹟」と思われているものだとしたところだ。「奇蹟」によって救われたことが原因で凄惨な連続殺人が起きてしまったというのはすなわち、神による救いが原因で連続殺人事件が起きたということになる。

 柄刀は本作によって奇蹟そのもののみならず、奇蹟による神の救いをすら解体したのだ。