鯨統一郎『喜劇ひく悲奇劇』

喜劇ひく悲奇劇 (ハルキ・ノベルス)

　２００４年８月購入。１年３ヶ月の放置。タイトルからわかる通り、泡坂妻夫の『喜劇悲奇劇』リスペクトとして書かれた回文尽くしのミステリ。……なのだが、ネタもとに遠く及ばない出来。回文をこれでもかとぶち込んだこと、特に中盤の「名探偵回文」はユニークなのだが、肝心のミステリ部分がぐだぐだ。回文尽くしということであの解決編だというのはわかるが、本格ミステリファンにとっては地雷以外の何物でもないものとなっている。

　ただ、さまざまな噴飯ものといえるようなことをミステリのフォーマットに基づいて描ききるところに鯨統一郎の真骨頂があるのは確かで、その部分を認められるかどうかがこの作者を評価するポイントになるのだと思う。私自身はこの人の作品を楽しめる程度のゆとりを持った本読みでありたい。