連城三紀彦『美女』

美女 (集英社文庫)

美女 (集英社文庫)

 政宗九さん(id:mmmichy)お勧めの1冊ということで、読んでみた。そもそも連城作品は初期のものしか読んだことがなく、近刊はミステリ色の薄い大人の恋愛小説だからと敬遠していたのだが、これがまったくの思い込みに過ぎないと思い知らされた。
 収録作は全部で8つ。
 自分の顔を醜いものにしてほしいと願う美女の心理を描いた「夜光の唇」。超絶技巧の「喜劇女優」。死に臨む妻が夫に対して語る衝撃の事実「夜の肌」。自分の家族を崩壊させたいと願う少女の行動を描く「他人たち」。二組の夫婦の浮気の裏に隠された企み「夜の右側」。ポルノ映画の役と実際の関係が交じり合い、読み手を幻惑させる「砂遊び」。妻と愛人、同時に起きた二つの殺人事件に関する奇妙なアリバイ工作に隠された意図「夜の二乗」。決して美人とはいえない女に自分の浮気相手の役を演じさせる「美女」。
 いずれも作家連城が熟練のテクニックを遺憾なく発揮した佳作ぞろいだが、なかでも「喜劇女優」は凄まじい。この作品で作者の意図することは結構早い段階で気づくものだ。ただし読み手としては、その時点では「おいおい、そんなこと考えてもうまくいくのかよ」というような感じで軽く構えてしまう。ところがどっこい、このウルトラC――いや、それ以上の難度にあるその仕掛けを、見事に成功させてしまうのだ。予想通りの結末といえばそういえるのだが、それでも鳥肌が立ってしまう。
 ミステリというジャンルにおいてはトリックやロジックに重きが置かれてしまいがちで(それはそれで当然のことだが)、文章上の技巧は軽視されがちだ。文章が下手でも、構成がぎこちなくてもトリックやロジックがうまく決まれば「ミステリとして」成功であるとされるケースも多い。だが、断言する。ミステリにおいても小説技巧は必要だ。すばらしい作品を読ませていただきました。