光原百合『十八の夏』

十八の夏 (双葉文庫)

十八の夏 (双葉文庫)

 2004年6月購入。1年4ヶ月の放置。表題作「十八の夏」は朝顔、「ささやかな奇跡」は金木犀、「兄貴の純情」はヘリオトロープ、「イノセント・デイズ」は夾竹桃というように、収録4作品は花をモチーフとして描かれている。その花の扱われ方は様々で、「十八の夏」では4鉢ある朝顔にはそれぞれ名前がつけられており、それの意味するところが作品の肝になっている。また、朝に咲き昼から夜にかけて萎んでいく朝顔の花の咲き方は主人公の少年の恋の行方を象徴しているように読めなくもない。「ささやかな奇跡」の金木犀はいかにも現代風の錯誤というか勘違いというかそういった部分をうまく突いている。魚はヒラキの状態で泳いでいませんよ。「兄貴の純情」のヘリオトロープは物語におけるちょっとしたところで用いられるのだがものすごく印象に残る。そして「イノセント・デイズ」の夾竹桃はミステリとしての扱われ方の比重が一番大きい。夾竹桃のある性質とタイトルにある「イノセント」の対比が物語の痛々しさを際立たせている。結果、「イノセント」という言葉――そして物語の結末が読み手に重く残る。以上4編佳作揃いの好短編集だ。