殊能将之『子どもの王様』

子どもの王様 (ミステリーランド)

子どもの王様 (ミステリーランド)

 2003年7月購入。2年以上の放置。小学生のショウタは団地住まい。父はなく母と二人暮らしだ。同じ団地に住むトモヤとは親友だが、彼はほとんど学校に行かずに本ばかり読んでいる。トモヤの作り話は途方もないものばかりで団地の外には何もないとか、西の善い魔女と東の悪い魔女の話、そして残虐非道な子どもの王様の話とか。全部がトモヤの作り話だと思っていたショウタだが、ある日子どもの王様を目撃してしまう。そしてそれをトモヤに話すと……
 この「ミステリーランド」に限らず、作者が子供向け(と限定するわけではないが、一応こういう書き方をさせてもらう)作品を書き上げる場合二通りの考えがある。ひとつは子どもに夢を与える健全な作品を提供するという考え、そしてもうひとつは子どもに現実というものを見せつけ、その現実を見つめるということを認識させるという考え方だ。殊能将之がとった手法は明らかに後者で、子どもの王様の正体と、それに対比するラストやりとり――「大人になったら何になる?」という母の問いかけに対するショウタの「大人になりたいな」という台詞は大人になるとはどういうことかを端的に表現しているといえる。いろいろと重いものを背負ってしまった少年だが、それによって明らかに少年は大人へと一歩近づいた。