有栖川有栖『白い兎が逃げる』

白い兎が逃げる (カッパ・ノベルス)

白い兎が逃げる (カッパ・ノベルス)

 2003年11月購入。約2年の放置。野球にたとえると、有栖川有栖はアベレージヒッターといえる。特大ホームランこそかっ飛ばさないが、コンスタントにヒットを打ち続け、常に高打率をキープする。そんなイメージだ。新本格第一世代でいわゆる京都組と呼ばれる面々が新作を発表する期間が短くなっていく中で、非京都組の有栖川有栖は(短編ではあるが)新作を書き続けてきた。
 今作でも双子トリックを扱った「不在の証明」、ホワイダニットの白眉「地下室の処刑」、一風変わったダイイングメッセージもの「比類のない神々しいような瞬間」、アリバイ崩しの表題作「白い兎が逃げる」とさまざまな技巧を凝らしてヒットを飛ばしている。ボリューム感こそないが、堅実だ。今のトレンドとも言える叙述ものに寄りかかってないところも、本格書きとしてのこだわりを感じる(これは単に向き不向きの問題かもしれない)。
 この人がいたからこそ、新本格ミステリの本流がここまで途切れずにきたといっても過言ではないだろう。ところで、ここ最近沈黙がちだった京都組がそれぞれ新刊長編を発表し、それなりに評価された。次は有栖川有栖の番ではなかろうか。短編によるシングルヒットでなく、そろそろ「学生アリス」シリーズで『双頭の悪魔』級の特大ホームランを見たいものだ。