我孫子武丸『弥勒の掌』
- 作者: 我孫子武丸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/04
- メディア: 単行本
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教え子と関係を持ってしまったために夫婦関係の冷め切ってしまった男性教師と元やくざと癒着する刑事。教師の妻は失踪し、刑事の妻は何者かに殺された。両者とも新興宗教「救いの御手」に出入りしていたことが判明し、二人はそこに探りを入れるが……
教師と刑事の設定は「これなんてノワール?」という感じだが、真相にたどりつく一連の流れは、暴力性をより増加させるなど書き方次第ではまさにノワールそのものになりえただろう。そうはならないのはいわゆる本格ミステリのコードを用いたからで、その辺を考えると本格とノワールの違いはコードによる演出に拠るところがそれなりに多くあるのだろう。ただ、この『弥勒の掌』を単純に本格作品だと言い切ってしまうにはためらいを覚える。最後の登場人物の役割をひっくり返すシーンは、驚きという部分では他の似たような構造を持った本格作品を読んだ時に感じるものに通ずるのだが、改めてそれまでの内容を振り返ってみると伏線が著しく不足しているため、本格としてはアンフェアではないか? と感じてしまう。作者本人も「構造的にはサスペンス」で「後ろから殴って不意打ち」みたいなものだと解説しているので、本格としてこだわることが間違いなのだろう。実際、そういったフィルタを外して読んでみれば十分に楽しめる作品であるのだし。