森博嗣『Θは遊んでくれたよ』
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/05/10
- メディア: 新書
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前作で「推理」と「観察」という観点で森博嗣の「理系」と呼ばれる所以を指摘したが、今回も似たようなことを。今回は序盤で山吹が論文の指導を犀川に受けるシーンがある。論文とはつまるところデータを観察することにより結論として何がしかの新発見をしたり新たな観点をもたらすものだ。これを推理に置き換えると結論とは犯人を指摘することになる。そして論文は一人の力で完成するものでなく、たくさんの協力者が存在し、その人たちは連名者として名を連ねることになる。
今度は逆に推理として置き換えるとたくさんの協力者(山吹や加部谷恵美、そして西之園萌絵)にたすけられ、探偵(海月)は謎を解くことが可能となる。山吹の論文には探偵役の海月は関わっていないが西之園萌絵も連名者として加わっている。
ところが、前シリーズの探偵役を担った犀川は自らの手で連名者たる自分の名前を消してしまう。これは今シリーズでの犀川の立ち位置を犀川自身が決定したのだといえよう。それでも指導者である、つまりは実力として学生たちより上にあることには変わりはなく、その証拠に彼は誰よりも早く真相にたどりつくことができる。
学生としての探偵とその探偵役を退いた教官――真理を追い求めるのは後進を指導せざるを得ない立場に立つ者ではなく、あくまで学生であるべきだ。そうやって学生は成長していく。
このように読み解くと、今後探偵役の海月は成長した結果として犀川に先んじて真相にたどり着くことになるのだろうと予測されるが、おそらくはそんな単純な展開にはならないんだろうなあ。