田中啓文『蹴りたい田中』

蹴りたい田中 (ハヤカワ文庫 JA)

蹴りたい田中 (ハヤカワ文庫 JA)

 2004年6月購入。1年以上の放置で元ネタ『蹴りたい背中』のブームも過ぎ去ってしまった。読む時期を確実に逸してしまった……と思いきやパロディはタイトルのみで『蹴りたい背中』を読んでなくても無問題だ。他の短編も同様で『恩讐のかなたに』を読んでなくても大丈夫。元ネタとリンク度は京極夏彦『どすこい』のほうが大きい。

 内容はハヤカワ文庫の前作『銀河帝国の弘法も筆の誤り』と同じで前編これ駄洒落の様相を呈している。少々ばっちいシーンがあるのも同様で田中啓文テイスト全開といったところ。時節柄ムリヤリ結びつけるわけではないが、こういったくだらない脱力系の作品が刊行されるあたり、まあ、日本とは平和だなあと。主流には決してなりえないが、こういった作品まで発表できるのはSFひいては小説の懐の深さの表れなのだろう。