天城一「密室作法」

 ようやく投票を済ませた。で、この「密室作法」だが、初出は相当に古いものであろう。この『本格ミステリ05』収録の改訂版でも1980年にとられたものだという。確かに単行本『天城一の密室犯罪学教程』は昨年発売された本だから『本格ミステリ05』に収録されてもおかしくないのだが、この20年以上前に書かれた著作がここで取り上げられたのはどういうことだろう。あえて深読みしてみる。

 「密室作法」で著者は言う。「密室トリックを尊敬しすぎるな」と。さらに、

密室トリックの作り方には、ある公式のようなものがある。一旦この公式に気づけば、所用のデータを代入するだけで、求めるトリックができ上るようなところがある。

 こう述べている。これは今で言うところの「コード型本格」のことを言及しているように取れる。その上で「密室トリックを尊敬しすぎるな」。つまり現代の文脈に照らして言うと、「コード」に頼り切った安易な創作姿勢に警鐘を唱えていることになる。そうやって見た場合、この「密室作法」で提唱していることは今の本格シーンに対して非常に有効なものになる。そういう意味でこの作品が『本格ミステリ05』に収録されたのは意義深いものだといえる。