鮎川哲也『準急ながら』

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

 2001年8月購入。ほぼ4年の放置orz 新聞に取り上げられた十数年前の北海道での美談と愛知の殺人事件。一見無関係な二つの事件がある人物の存在によってつながる。そして浮かび上がる殺人事件の容疑者。しかしその容疑者には鉄壁のアリバイを示す写真の存在が……

 鬼貫警部によるアリバイ崩しものの佳作。特に容疑者のアリバイの堅固さをこれでもかといわんばかりに示していくところはすごい。鬼貫の仮設はことごとく砕かれていくわけだが、この積み重ねによって最後にアリバイが崩れたときのカタルシスが大きいものとなる。派手さにかけるがいぶし銀の1作といえよう。なお、事件関係者として登場する女性が、2人ともそれぞれ男性に負けぬほど気が強く、特殊な職業とはいえ自身で仕事をする人物として描かれている。作品が書かれた時代背景から考えるとその当時の女性の社会進出や地位向上といったものを積極的に取り入れた、いわば風俗小説の側面を備えているといってもよいのでは。