田中芳樹『ラインの虜囚』

 

ラインの虜囚 (ミステリーランド)

ラインの虜囚 (ミステリーランド)

 ミステリーランドのシリーズはすべて購入しておきながら1冊たりとも読んでないという体たらくだったのだが、ようやく1冊目に着手。
 父を亡くした少女コリンヌは祖父にその報告をするべくカナダからフランスへやってくる。そこで待っていたのは祖父の厳しい言葉。大学を途中で退学してカナダへ渡った息子が現地の先住民との間にもうけた娘など孫と認めないと祖父は言う。コリンヌが孫だと認めてもらう条件、そして父の名誉を回復するための条件――それは、ライン河の東岸にある『双角獣の塔』に幽閉されている仮面の人物の正体を確かめること。巷間言われる通り、その虜囚は死んだはずのナポレオン・ボナパルトなのか? コリンヌは3人の仲間と『双角獣の塔』を目指す。

 良作。3人の仲間はコリンヌの失った父の代役ともいえるのだが、コリンヌに対する目には暖かさがある。優しく、そして時には厳しく見守る大人の視線は子供には必要なことである。ちなみにこの3人の仲間、海賊王のラフィットはその名で実在する人物だし、剣士モントラシェは超有名ミステリ作家の冒険小説(残念ながら未読。購入済みだが、積むこと5年以上になると思う)に登場するあの人だし、自称天才作家アレクはあの世界的ベストセラー作家だったりする。こんな人物とナポレオンが関わるのかと思うといやがおうにも期待感が高まってしまう。まあ、結果尻すぼみともいえるのだけどそこはそれ。この登場人物キャストで燃えないはずがない。

 また、この4人組という編成は作者田中芳樹の『創竜伝』と同じ構図で、作者いわくおおもとは『西遊記』や『三銃士』にあるという。後者の『三銃士』はこの物語にも間接的に関わっており、続編の『鉄仮面』と合わせて考えると思わずニヤリ。

 味方が強すぎて緊迫感に欠けるという欠点はこの作者の常で、弱点でもあるが、それを補って余りあるロマンある作品に仕上がっている。そして子供と大人の本来あるべき関係が描かれていてそこに好感が持てる。