鮎川哲也『人それを情死と呼ぶ』

 2001年7月購入。4年の放置orz。貝沼産業の販売部長の河辺遼吉はA省の汚職事件に関わっていた。警察の捜査が彼の近くまで迫るのを心配する妻、照子。そんななかで起きた遼吉の浮気の疑惑、そして遼吉と疑惑の相手津山久子の死体が見つかる。警察が心中と断定するなかで、ある疑惑が――これは偽装心中ではないか? 照子と遼吉の妹・由美は独自に捜査に乗り出すが、疑惑の人物たちには鉄壁のアリバイが。


 社会派全盛の時代に書かれた作品でありながら、「汚職」といういかにも社会派的な問題点をあくまで本格ミステリとして料理している。作家として本格一筋を貫き通した鮎川の矜持を感じる。もちろん、そういった時代背景を抜きにしても十分に楽しめる。読者に偽装心中を疑わせておいてそこからさらにひねりを加えるところなど、目の付け所に思わず感心。それまで描いてきた構図がきれいにひっくり返るのだから。そしてタイトル。一見平凡だが、読み終わったときに思わずうねってしまった。なるほど、そういうことね。