泡坂妻夫『蚊取湖殺人事件』

蚊取湖殺人事件 (光文社文庫)

蚊取湖殺人事件 (光文社文庫)

 2005年3月購入。放置期間2ヶ月。
 泡坂妻夫の最新短編集。しかも、読者に優しい文庫オリジナル。
ミステリ、奇術、伝統職人ものという泡坂の代表的な要素3つが盛り込まれている。
 表題作「蚊取湖〜」と「雪の絵画教室」、「銀の靴殺人事件」、「秘宝館の秘密」がミステリもの。だが、これらの作品は泡坂ミステリとしてはそれほど特筆するべきものもない、いわば普通の作品。この短編集で面白かったのは奇術や伝統職人を扱った非ミステリ作品のほうだ。「えへんの守」、「念力時計」が奇術を扱った作品で、特に後者はツボにはまった。
 解説で細谷正充氏が書いているように、泡坂の筆は「枯淡の境地」にある。派手さはない(「雪の絵画教室」はラノベ系のレーベルが初出であるが、明らかにミスマッチであろう)が、淡々とした筆致で書かれる人物・情景は一級品で、そんじょそこらの作家では到底まねし得ない。現代では忘れ去られつつある侘びさびを感じさせてくれる。