綾辻行人『深泥丘奇談』

深泥丘奇談 (幽BOOKS)

深泥丘奇談 (幽BOOKS)

 2008年2月購入。2年5ヶ月の放置。舞台は深泥丘。体調が優れず、医者に通うようになった語り手である作家が遭遇した怪異譚。唯一「悪霊憑き」を除き、作者のメインフィールドともいえるミステリの体裁をとっているものはない。他作品はホラーに分類されるものであるが、これらすべてが作者の同ジャンル先行作品とはやや様相が異なる。すなわち、『殺人鬼』のようなスプラッターでもなく、『眼球綺譚』のような趣味の悪いグロさが際立つものでもない、あるいはミステリ作品にも共通するサイコっぽさもない。強いてレッテル張りをするのであれば、やはりタイトルにある<奇談>、というのがふさわしいのであろうか。前述した先行作品に比して突出した味はないものの、それなりに安定して読める一品である。とはいえ、インパクトの薄さは否めない。