西澤保彦『フェティッシュ』

フェティッシュ

フェティッシュ

 2005年10月購入。3年半の放置。本書はいくつかのパートごとにストーリーが進行していく。喪服女性の足フェチがある人物に出会い、追跡していく「意匠」パート。セックスを含む他者との接触、のみならず新陳代謝そのものに嫌悪感を抱くに至った看護婦が病院内のある秘密を知ってしまう「異物」パート。同棲相手を失った孤独な男がふとしたきっかけでとある少年と出会う「献身」パート。不幸な事故によって息子を失い、夫とも不和になった中年女性が旅先で奇妙な出来事に巻き込まれる「聖餐」パート。そして殺人事件を追う警察による「殉教」パート。それぞれのパートはやがて「クルミ」という奇妙な少年を通じてつながっていく。作者はSFガジェットを用いたミステリを得意としており、本書もまたSF的な設定を駆使してストーリーを展開させていく。注意しなくてはいけないのは、SF的な設定はあくまでストーリーに寄与するもので、本格ミステリ的な要素には密接に関わってこない。したがって、初期西澤作品、たとえば『七階死んだ男』や『瞬間移動死体』のようなミステリ濃度の濃い作品とは一線を画している。また、タイトルから想像されるように、作者が好んで用いる特殊な性的嗜好を題材とした作品でもあるが、その要素のみを前面に押し出されていないことにも留意したい。西澤保彦の作品には、この部分のみが悪目立ちしてしまうものもあるのだが、本書に関してはさほど胃もたれすることはない。作者の個性がそれなりに発揮されており、かといって個性のみが鋭く突出しているわけでもなく、相対的にみてまずまずの水準の出来ではないだろうか。欲を言えば、せっかくいくつものパートを用意したのだから、それらをトリッキーに絡めて(やはり作者の持ち味である)パズラー的要素なども盛り込んで欲しかった。