池上永一『テンペスト』上下

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

 上下まとめて。2008年8月購入。半年の放置。舞台は幕末期の琉球で、真鶴という美少女を中心に物語は進行していく。彼女自身は優れた知性の持ち主であるが、女性であるがゆえに王宮への道は閉ざされている。したがって自身を宦官と偽り、真鶴ではなく孫寧温として伺候していくことになる。池上作品というと、快活な少女が物語のキーワードとなることが多く、またその少女性はユタやノロといった琉球の象徴と密接に結びついていることが多いのだが、本書ではその少女の少女性をあえて封印している。これは単純に作劇上の演出という以上に作者の意図を感じる。
 いうまでもなく少女=琉球の封印は作中で西洋列強の圧力に苦しむ琉球王朝とリンクしている。そしてこの少女が少女であることを取り戻し、やがて母になり子を産み、未来を次世代へとつなげていくストーリー展開もまた、琉球の運命を象徴しているかのようだ。
 真鶴が琉球の現在及び未来の象徴とするなら、作中に登場するもう一人の女性・聞得大君の真牛は琉球の過去の象徴ともいえる運命をたどる。この化物じみた生命力を見せる女性もまた、池上作品の一類型人物であり、真鶴を琉球における表の主人公とするなら裏のシンボルとであるといえる。池上作品における琉球という舞台はこの両者の存在によって実に魅力的に描かれており、本書はこれまで頻繁に琉球・沖縄をテーマにしてきた池上小説の集大成ともいえる作品だ。傑作と呼ぶことに躊躇いはないが、これまでの池上作品に比べると破天荒さは抑制されているのがファンには残念なところでもある。