ジャック・フィニイ『レベル3』

レベル3 (異色作家短篇集)

レベル3 (異色作家短篇集)

 2006年9月購入。2年3ヶ月の放置。表題作や「おかしな隣人」「こわい」といった収録作の多くは時間SFものを扱っており、しかもいずれの作品の主人公たちも主人公のいる今、現代よりも過去のほうがすばらしい時代である、という価値観をもっている。執筆当事と同時代である現在を舞台とした場合は過去を羨望し、未来から現在へやってきた者元来居た未来の世界に絶望している、といったように。
 いまひとつ、恋愛テーマの作品では映画のような理想的なロマンスよりも、より現実的な、自分たちが実際に経験する恋愛のほうがすばらしい、というように描かれている。
 作者の描く世界は一方では現実否定、他方では現実肯定にみえるが、これらは表裏一体である。20世紀とともに人生を歩んだといっていい作者にとって未来とは理想的な世界とはとらえられなかった。ゆえに未来否定を描くことはすなわち理想否定に通ずる。これを恋愛作品に移行して考えるとそのまま同じ理想否定の価値観が用いられていることになる。フィニイの作風は現実を見据えた上で見えてきた世界をそのまま作品に投影してしまうものといってもよいであろう。