柳広司『はじまりの島』

はじまりの島 (創元推理文庫)

はじまりの島 (創元推理文庫)

 2006年9月購入。2ヶ月の放置。南米大陸での調査の帰途、ガラパゴス諸島へ立ち寄った英国船ビーグル号の面々。上陸したその翌日、宣教師マシューズの絞殺死体が発見される。犯人は上陸した仲間たちの中にいるのか、あるいは、島に住むと噂されるスペイン人の銛打ちか。周囲の緊張感が高まる中、続いてフエゴ・インディアンの少女が何者かに襲われる。博物学者としてビーグル号に乗船していたチャールズ・ダーウィンは犯人探しに乗り出すのだった。
 ダーウィンといえば進化論を唱え、神による人類創生を否定してのけた人物だ。人類の誕生を猿からの進化という形で提起し、神の奇跡を否定してみせたその様は、ミステリにおいて探偵が不可能犯罪という奇跡を解き明かしていく姿に似ている。その意味で、ダーウィンという歴史上の人物は探偵がはまり役であるといえる。
 また、本書はダーウィン自身が科学史上で果たした役割をプロットに取り込むことによって、ひとつの本格ミステリ小説として昇華されており、したがって、ただ単に探偵役に対する着目点のみならず作品の完成度という点でもかなりのものといえる。