小路幸也『そこへ届くのは僕たちの声』

そこへ届くのは僕たちの声

そこへ届くのは僕たちの声

 植物人間の意識を取り戻すことの出来る人間がいる、という奇妙な噂。身近に植物人間の存在があった新聞記者や刑事たちが噂を追っていくと、まるで無関係と思われた連続誘拐事件に関わっているらしき人物にたどり着いた。その名は<ハヤブサ>。この<ハヤブサ>こそが植物人間を覚醒させる能力を有しているらしく、さらにはその人物は新聞記者たちの近くにいたようだった。
 物語の根底にあるのは少年少女の成長という要素で、さらにそれは<喪失>という形で表出されている。したがって全体に流れる空気はどことなく寂しげである。しかし、その空気を作り出す子供たちはあくまで前向きで、<喪失>をただ悲しんでいるわけではない。全体的に薄味ではあるものの、子供から大人へと成長を遂げていく話としてよく出来ている。