浦賀和宏『火事と密室と、雨男のものがたり』

火事と密室と、雨男のものがたり (講談社ノベルス)

火事と密室と、雨男のものがたり (講談社ノベルス)

 2005年7月購入。3年1ヶ月の放置。女子高生の首吊り死体をめぐる謎と、多発する放火事件の犯人探し。この二つの事件を追うことで物語は進行していく。奇をてらった設定とそれに基づくロジックを用いているものの、表向きはまっとうなミステリといってよい。
 しかし本書、あるいは本シリーズの最大の読みどころは、非モテキモオタ少年による青春恋愛ものという要素にあるだろう。1作目で松浦純菜という少女に出会った八木剛士はとある事件を通じて次第に彼女と仲良くなり、2作目の本書にして恋愛対象として意識する。さらには恋のライバル的存在が登場し、八木の胸中は穏やかならざるものになる……一見、三角関係を扱った普通の恋愛小説のようではあるが、あくまで主人公はいじめられっこのキモオタ、ということで語られる彼の心情は非常に歪んでいる。今後、こういった彼の心情は報われ、境遇が好転することで読者はカタルシスを得られるのだろうが、そう単純にはいかないと思われる。はたして物語をいかに着地させるか、作者の腕の見せ所であり、今後の展開が楽しみだ。