マーゴ・ラナガン『ブラックジュース』

ブラックジュース (奇想コレクション)

ブラックジュース (奇想コレクション)

 2008年5月購入。2ヶ月の放置。夫殺しの罪でタール池に生きたまま沈められることになった姉と、それを歌いながら見送る家族たちを描いた「沈んでいく姉さんを送る歌」や、祭りの場に集う道化師たちを次々に狙撃していく「赤鼻の日」、自分たちの見方である人間を開放しようとする象の群れを、象視点で描いた「愛しいピピット」、チーズ好きの、怪物じみた天使が登場する「俗世の働き手」など、映像的にインパクトの強い作品、読者のイメージ喚起力に依存した作品が多い。したがって、ストーリーの筋のみを追ったり、オチのひねりや切れに注目する読み手、あるいはキャラクター至上主義者にとっては存分に堪能できるタイプの作品とはいえないかもしれない。しかし、「沈んでいく姉さんを送る歌」の紡ぎだす、残酷ではあるが静謐とした空気はすばらしいし、「赤鼻の日」における次々と狙撃されていく道化師たちの場面はこの上なくシュールで、これらの作品の絵づらを浮かべることが出来ればそれだけでおなかいっぱいになれる、秀逸な幻想小説といえる。