ジョン・スラデック『蒸気駆動の少年』

蒸気駆動の少年 [奇想コレクション]

蒸気駆動の少年 [奇想コレクション]

 2008年2月購入。1ヶ月の放置。明らかに「奇想」の系譜にある作風の作家であるのだが、その中にあって読み応えがひどく異質である印象を受けた。愚考するに、SF・ミステリ的なガジェットといった要素をストーリーを展開していく材料として用いるのではなく、ガジェットそのもの、その本質を突き詰めていくかのような作者の姿勢がうかがわれるのではないかと。
 シュールかつナンセンスな会話のやり取りが絶妙のきわめて上質なスラップスティック「古カスタードの秘密」、交通渋滞解消を目的としたとんでもない発明が巻き起こす爆笑必至のコメディ「ピストン式」といったユーモア系の作品あり、「見えざる手によって」や「息を切らして」のようなミステリあり、ロボットたちの会話から明らかになる真実「不在の友に」やタイムパラドックスものを突き詰めていく感ありの表題作等SFあり、各編とも短いが変り種のものが多く、「奇想コレクション」シリーズでも白眉の1冊だ。また、おそらくわかりにくいであろう作品を訳したのであろうが、非常に読みやすい。訳者には敬意を評したい。