恩田陸『劫尽童女』

劫尽童女 (光文社文庫)

劫尽童女 (光文社文庫)

 2005年4月購入。1年8ヶ月の放置。秘密組織「ZOO」に所属していた伊勢崎博士は自分の娘を超能力者に仕立て上げる。博士と娘の遥はその組織から抜け出すのだが、組織に追われる身となった。逃亡生活の中で出会う人々と少女によって築き上げられていく擬似家族めいた関係が章によって形を変えて語られていくのが特徴。1章では実の父、2章では孤児院で出会った女――彼女は過去に娘を失っており、遥のことをその娘にそっくりだという、3章ではやはり孤児院で出会ったシスターとルポライターとともに、まさに擬似家族を築いていく。さらにその後には真の理解者と思える存在に遭遇する……というように。またそのような人間関係とともに、かけがえのない味方にして超能力犬でもあるアレキサンダーが常に彼女の周囲に存在している。組織に追われる身であり、かつ冒頭で家族と死別する幼い少女にとって過酷過ぎる運命と、あたたかな家族の絆というコントラストを前面に押し出しているので、読みどころがはっきりしている。また、展開的に後半グダグダになりがちな恩田作品だが、本書はきちんとした着地点を示している。恩田色が発揮されているとはいいがたく、らしさという点ではマイナスだが、一作品としてはそれなりにまとまっている。