石持浅海『心臓と左手 座間味くんの推理』

心臓と左手  座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)

心臓と左手 座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)

 2007年9月購入。3ヶ月の放置。『月の扉』に登場した「座間味くん」を再び探偵役に据えた短編集。酒席にて聞いた話を元に推理をするいわゆる安楽椅子探偵もの、というパターンはほぼ同時期に刊行された『Rのつく月には気をつけよう』と同じであるが、『Rの〜』が恋愛に絡む話に対する推理を主軸とした日常の謎を描いているのに対し、本書ではテロリストや過激派が起こした物騒な事件に関する推理を扱っている。酒を飲み交わしながら語られる情報から思いもよらぬ真相を切り開いてみせる、その切れ味は抜群で本格ミステリ短編集の佳品といえる。事件を紐解いた際に警察の失態が明らかになる話もあるのだが、それに対して探偵が「恥ずかしい話を闇に葬れる」とか「公にならなくて命拾いした」などと言ってのける。このあたりの倫理的に鑑みて微妙な点はいかにも石持らしい。