北村薫『紙魚家崩壊 九つの謎』

紙魚家崩壊 九つの謎

紙魚家崩壊 九つの謎

 2006年3月購入。1年7ヶ月の放置。OLがストレス解消のために行ったある行為がきっかけで精神的に異常をきたしていく「溶けていく」、書籍収集狂夫妻の家で起きた殺人事件「紙魚家崩壊」、老人用のアパートで起きた密室殺人「死と密室」、もうすぐ孫が生まれ祖母になろうという女性の昔話「白い朝」、十面サイコロを持つ男性の正体「サイコロ、コロコロ」、おにぎりを握った人物を当てる話「おにぎり、ぎりぎり」、病人の代理で会った二人が交わす奇妙な会話「蝶」、朝帰りの電車で起こる怪奇譚「俺の席」、ユーモアたっぷりにおくるかちかち山の新解釈「新釈おとぎばなし」の九編を収録。それぞれの書かれた年代が古くは1990年、新しいので2004〜05年と幅広く、それゆえか作風も多彩でバラエティに富んでいる。それぞれ北村薫の特徴が表れており、興味深い。「溶けていく」や「俺の席」などはサイコホラー色が強く『盤上の敵』を思わせ、あるいはその幻想風味からは『水に眠る』や『語り女たち』にある短編を早期させるだろうし、「サイコロ、コロコロ」「おにぎり、ぎりぎり」はデビュー初期の「円紫師匠とわたし」シリーズのような日常の謎、「紙魚家崩壊」「死と密室」は『冬のオペラ』のようなまっとうな本格を推し進め先鋭化させた仕上がりとなっている。一作家のさまざまな側面が見られる、お得な短編集だ。