海堂尊『チーム・バチスタの栄光』

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

 今年のMYSCONのゲストということで参加者の心構えとして開催前に読んでおくつもりでしたが、なぜか今頃読了でした。我ながら絶望的な読書スピードです。技術的にきわめて難しいとされるバチスタ手術という分野において、奇跡的な成功率を誇る東城大医学部付属病院・桐生恭一のチームで、失敗が相次いだ。これは単なる偶然か、あるいは何らかの悪意が絡んでのものか……。病院長の高階は事態収拾をはかるべく、万年講師で不定愁訴外来の責任者である田口公平に内部調査を依頼した。
 作者の海堂は本職の医者であることもあって、作中で描かれる病院・医者がらみの描写は緻密でリアリティ溢れるものになっている。一方でそういったリアリティとは程遠い物語的演出に基づくキャラクター設定も巧みだ。このリアルさと物語的なデフォルメという二つのバランスが読者をひきつける両輪として機能しており、抜群のリーダビリティを発揮している。作中世界に対する作者の視点とそれを描く筆致が地に足ついており、なおかつエンタメとしてのサービス精神も失わずにいる作品で、読んでいてかなりの好印象を抱いた。