機本伸司『神様のパズル』

神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

 2006年5月購入。1年2ヶ月の放置。留年寸前でゼミの話題にもついていけないゆとり大学生の綿貫に、担当教授からある依頼が持ちかけられる。飛び級で進学して来た天才学生・穂瑞沙羅華をゼミに参加させてくれということだ。ゼミは無意味だと参加を渋る穂瑞に対し、綿貫はひとつのテーマを持ちかける。宇宙を作ることができるのか?――このテーマに興味を持った穂瑞はゼミに参加することとなったのだが、綿貫は彼女とともに宇宙が作れることを証明しなければならないこととなった。
 宇宙創成の謎を探るという根源的なテーマを、学生たちの生活を絡めて青春小説仕立てに仕上げた一品。視点をゆとり青年にしてあるため、SF的な議論は割合平易*1である。無味乾燥な研究に没頭する学生たちと、田植えに精を出す老人という対比はベタであるものの、作品のテーマ補強の上ではやむない。また、ひとつ間違うと天才少女と普通の青年が恋をするという目も当てられないセカイ系ストーリーになりがちなところなのだが、そのルートをとらなかったところは正解か。その手の期待をして読んだ読者は大きな肩透かしを食うこととなるので注意。全体的に見て、大きなテーマをディベートという形で読者にとってわかりやすい形で提示し、かつ進行するのでそういった意味で読んでいての安定性はある。ただし視点をごく卑近的にした場合、仲間通しで穂瑞をからかうさいの下劣さが、からかいというには度を越しておりいやな感じを抱かせる。

*1:もっともSF無理解派系超ゆとり読者にはそれでも難解ではないでしょうか。