ジョン・ディクスン・カー『夜歩く』

夜歩く (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-2)

夜歩く (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-2)

 前夫に殺されかけた経験を持つルイーズだが、今では別の男性・サリニー公爵と婚約し、幸せをつかみつつあった。ところが、精神病院に収容されていたはずの前夫・ローランが脱走したという。ルイーズの婚約の話を聞いたローランはサリニー公爵を殺害せんと、夜の街を徘徊するのだった。
 カーの処女作は夜な夜な徘徊する「狼人間」のイメージで怪奇趣味を前面に押し出し、密室殺人によって不可能趣味を展開する。さらには男女の恋愛をメロドラマ風に絡めることによって物語を盛り上げる。もちろん不可能殺人の謎を解く名探偵も健在で、バンコランがハッタリたっぷりに名推理を披露する。処女作にはその作家のすべてが凝縮されているとは手垢にまみれた陳腐な言だが、本書はその表現が妙に当てはまるようだ。