シオドア・スタージョン『きみの血を』

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

 典型的なアメリカの片田舎で少年時代を過ごした男・ジョージの手記を中心に物語りは進む。アル中でDVの父親に車椅子生活の母親という家庭環境や頻繁に行う森での狩猟、そして恋人との出会いと別れ……これらの要素が絡み合って形成されたジョージの人格に潜む、ある特殊な嗜好が生じる。成長して従軍した後に、この嗜好が原因で彼は精神科医の世話になるのだった。
 タイトルで察しがつくと思うが、この嗜好とはゴシック・ホラーの王道として用いられるアレである。しかし本書はその王道的な要素をホラーとして用いることなく、サイコ・サスペンスとして作品を仕上げて見せた。精神科医と軍大佐による手紙のやり取りを用いて対象となる人物に距離を置く演出法が作品の雰囲気と絶妙にマッチしている。