樋口有介『刺青白書』

刺青(タトゥー)白書 (創元推理文庫)

刺青(タトゥー)白書 (創元推理文庫)

 2007年2月購入。3ヶ月の放置。女子大生・三浦鈴女の中学時代の同級生が相次いで殺された。人気アイドル・神崎あやと、アナウンサーに就職が内定していた伊東牧歩。殺された二人には鈴女の同級生ということの他に、右肩に刺青痕が存在するという共通点が。鈴女が事件を気にかけている一方で、フリーライター兼探偵の柚木草平が事件の調査に乗り出していた。
 柚木草平シリーズの4作目は既刊3作と異なり、柚木の一人称ではなく三人称で描かれており、結果として読者はこの魅力的な探偵役の人物像を立体的に捕らえることが可能となった。事件自体は従来のものと同様被害者たちの過去が大きく関わっており、その点は変わらないのだが、視点人物が40間近のおっさんから離れ、主に女子大生の鈴女を中心にシフトしているため、青春時代を振り返る哀悼の思いは薄く、逆に生々しさが残っている。事件そのものの真相もそういった生々しさを濃厚に感じさせるもので、やるせない気持ちにさせられるのだが、ここも若い鈴女という人物を中心に据えたため、結末は前向きでみずみずしいものになっている。かように視点人物を変えたことが効果的に活きた作品であるといえる