伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

 2003年11月購入。3年5ヶ月の放置。大学進学のため一人暮らしを始めた椎名は引っ越したきたその当日、隣人に本屋襲撃を持ちかけられる。河崎と名乗るその隣人は妙にフレンドリーで、結局彼のペースに乗せられて本屋襲撃の片棒を担ぐ羽目になる椎名。それだけでなく、河崎の過去にまつわる因縁話に徐々に引き込まれていくようになり……

 登場人物が総じて何らかの「境界」にこだわりを持っているのが特徴。「男女の境界」をやすやすと突破し、のみならず「恋人の境界」も越えてかかわる女性尽くと性的関係を築く河崎、「人種の境界」を越えて日本人と付き合おうとするブータン人ドルジ、そんな彼と付き合う恋人琴美、善悪という「倫理的な境界」をあざ笑い、動物虐待を繰り返す悪人たち……作者はその「境界」読者に意識させることで、登場人物の行為を印象付けることに成功している。特に他人にあまりかかわろうとしない美女・麗子が一連の事件を経て自身の「境界線」を破り、他人とより関わるよう変わっていく姿は印象的で、さらにいうならラストで神を「境界」の内側に閉じ込めるシーンは強く読者の胸を打つ。そうした一連の読ませの技巧が光る一作だ。