高田崇史『鬼神伝』鬼の巻 神の巻

鬼神伝 鬼の巻 (ミステリーランド)

鬼神伝 鬼の巻 (ミステリーランド)

鬼神伝 神の巻 (ミステリーランド)

鬼神伝 神の巻 (ミステリーランド)

 2冊まとめて。『鬼の巻』は2004年1月、『神の巻』は同4月購入。3年近くの放置。京都の中学に転校してきたばかりで友達のいない天童純は、いじめられっ子に追いかけられているうちに古びた寺に迷い込む。そこで出会った僧・源雲によって純は平安時代に飛ばされてしまう。そこは歴史の授業でならった都とは違い、「鬼」と呼ばれる存在が跋扈していた。
 ミステリーランド唯一の2分冊作品であるが、残念ながら作品にのめりこむことはできなかった。主人公の少年は自分自身で行動・決断することは特になく、ただただ周囲の者の発言に流されるのみだ。少年ものの王道ともいえる主人公の成長=ビルドゥングスロマンとしての魅力に欠け、それゆえ主人公の活躍(活躍するのは主人公の知恵や力ではなく、主人公の血統のみによって手にいれた龍である)によって得られるカタルシスに乏しい。
 また、従来の高田作品の魅力ともいえる歴史・伝承の現代的解釈も本作にはない。これは本作がミステリ的手法ではなく、伝奇的手法で描かれているから当然といえば当然なのだが、作者の持ち味が殺されているという事実は否めない。本作の発表によって、作者の執筆守備範囲は狭いことを浮き彫りにしてしまったような気がする。