舞城王太郎『SPEEDBOY!』

SPEEDBOY! (講談社BOX)

SPEEDBOY! (講談社BOX)

 背中にたくさん毛の生えた少年・成雄は常識では考えられないほどの速度で走ることができる。そんな成雄と彼を取り巻く友人たちのやりとり、あるいは彼の周囲で起きる不可思議な出来事をつづった連作(?)短編集。


 冒頭に記した成雄の特徴二つは非常に象徴的だ。そしていずれも他者との相違性を表しているのだが互いに相反する意味を持つ。まず、「背中にびっしりと生えた毛」は成雄のコンプレックスの一因であり、かつ自分では剃ることのできないものだ。これは彼の短所の象徴と読み取れる。一方、「誰よりも早く走ることのできる」点は明らかに彼の長所を示している。

 成雄の他者との接し方は、このように設定した短所と長所に大きく依拠することとなる。短所を克服するためには他者に助けてもらう必要がある――ある章では自分では剃ることのできない背中の毛を姉に剃ってもらうと言うシーンがある。

 同様に、長所である「早く走ることのできる」と言う設定は、作品全体において他者との係わり合いに大きな影響を及ぼしている。自分の走るスピードに付いてこれない人間は仕方ないと諦め、そのスピードによって起きた衝撃波による被害も気の毒とは思いつつもやはり切り捨ててしまう。

 人間誰しも長所短所はあり、短所は他者に補ってもらういながら、長所(裏を返せば他者にとっての短所)を持たざるものを省みることの薄い反応をとる。決して冷たいわけではない。友人を心配することだってあるし、好きに成った女性にはすさまじいほどの執着を見せる。それでも、他者との距離の取り方には決してつながりきれない壁が存在しているように感じる。

 ここで、作品の構成を鑑みて見ると本書は7つの章に分かれており、いずれも同じ人物が登場し、同じような世界背景にありつつも、微妙に異なっており、連続した世界ではない。各章それぞれの断絶の仕方はまさにこの主人公・成雄における対人関係そのものではないか。つながってそうで、つながっていない。それでもつながりと呼べるようなものはあるのではないか――

 正直、こういった人とのつながり方・コミュニケーションのありようは賛成できない。だが、安易な言い方になるが現代的な人との接し方の象徴としての1作品として見た場合、それを的確に表現できているわけで、そういった意味では本書の価値は計り知れないように思う。