辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』上中下

冷たい校舎の時は止まる (上) (講談社ノベルズ)

冷たい校舎の時は止まる (上) (講談社ノベルズ)

冷たい校舎の時は止まる (中) (講談社ノベルズ)

冷たい校舎の時は止まる (中) (講談社ノベルズ)

冷たい校舎の時は止まる (下) (講談社ノベルス)

冷たい校舎の時は止まる (下) (講談社ノベルス)

 3冊まとめて。2004年8月〜10月購入。2年の放置。センター試験が近くまで迫ったある雪の日、深月とその友人8人は誰もいない校舎に閉じ込められてしまう。玄関の扉は開かず、他の生徒も登校してこないどころか、時間すら止まってしまう。原因不明のままどうにか脱出を試みようとする彼らは、2ヶ月前の学園祭で自殺した生徒の存在を思い出す。この不可解な現象の背後にあるのはその事件なのか? しかし肝心の自殺した生徒の名前を思い出すことができない。やがて時間は動き出すのだが、仲間の一人が姿を消してしまう……

 クローズドサークルものを扱った作品では、その形成が人為的なものであれば閉鎖空間を作った者=犯人、という構図が成り立つ。本書の場合特殊な設定だが明らかに人為的で、上記の構図が綺麗に当てはまる。したがってミステリとしての話の運び方は非常にシンプルかつスマートである。
 ただし、本書の最大の魅力はそこにはない。本書は閉鎖空間に閉じ込められた少年少女たちの心の闇を丁寧に描いていることに力が注がれている。人間関係に悩む思春期の心情を扱っているわけで、昨今流行の青春ミステリとして注目すべき作品ということになるであろう。特筆すべきなのは、クローズドサークルを崩壊させることが登場人物の心の殻を破るという意味を持っている点で、これをミステリ的文脈とつなげてみると、犯人の特定→クローズドサークルの崩壊→登場人物の精神的成長というスムーズな流れが表出する。その点に注目してみると、本書はミステリの手順を青春小説の表現手法として活かした佳作であるといえる。