倉知淳『過ぎ行く風はみどり色』

過ぎ行く風はみどり色 (創元推理文庫)

過ぎ行く風はみどり色 (創元推理文庫)

 2003年7月購入。3年の放置。怪しげな霊媒師を出入りさせるようになった祖父を気にする家族の要望で、そりの合わぬ祖父の住む実家に戻った成一。身体の不自由な従妹や彼の幼いころから働いている家政婦たちが久しぶりに帰ってきた成一を迎えてくれた。しかし、件の霊媒師のみならずその霊媒師の「インチキ」を見破ろうとする科学者たちまでも頻繁に家を訪れていた。そんななかで肝心の祖父が密室の部屋で殺害される。後日、きな臭い空気のなかで降霊会が行われ……

 胡散臭い霊媒師、仲睦まじい家族たちの影に垣間見れる悪意、こういった要素を重苦しくせず飄々と、しかも軽薄でない筆致で描きあげたのは倉知ならではといったところ。特に、ラストシーンはお涙頂戴のノリだと鼻白んでしまいそうだが、しつこくなくさらりと書いているのは情感をどれだけ描写するのか、という点でのバランス感覚のよさが非常によく表れている。文庫で500ページ超ある作品だが、さくさく読めて長さを感じさせない。