西澤保彦『いつか、ふたりは二匹』

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

 2004年4月購入。2年3ヶ月の放置。眠りに就くとなぜか猫の身体に乗り移ることのできる小学生・智己。その智己のクラスメイトが車で襲撃され、一人が重態に陥る。それより1年前には女子児童の誘拐未遂事件が起きており、どうやら犯人は同一人物である模様。智己は猫の「ジェニィ」に乗り移り、犬のピーターとともに事件を調査するのだが……

 ミステリー・ランドに限らずいわゆる子どもにターゲットを絞った作品では主人公たる子どもの家族関係にスポットが当てられることが多く、この場合たいていは片親が不在であったり両親が不仲だったりというように何らかの問題を抱えている。こういった環境は子どもにとってはマイナスであり、そのマイナスを補ったり乗り越えたりすることで子どもの成長を描く――というのが少年少女文学の王道パターンといえる。本書もその例に漏れず、主人公智己の母親は再婚をしており、その結果女子大生の義姉と暮らすことになる。しかし、冒頭にそういった家庭環境が語られるのみで、以降両親は物語にまったく登場しない。「タック&タカチ」シリーズの書き手としてみれば歪んだ家族関係を描くのはお手の物であろうが、そういった面には一切タッチせずに物語は展開する。唯一、ギクシャクとはいかないまでも微妙に距離を感じる年の離れた義姉とのエピソードのみが語られる。こういった意味において、本書は単に西澤作品というだけでなく子ども向け作品という分野でも異質の作品といえる。

 なお、純粋に西澤作品ということで考えてみると、上記のようなアプローチをとった結果、作者特有の毒が消されており非常に読みやすくなっている。子ども向けを意識した結果だろうか。