柄刀一『ゴーレムの檻』

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

 2005年3月購入。1年1ヶ月の放置。「三月宇佐見のお茶会」シリーズ第2弾。本書には5編の短編が収録されているが、いずれも2つの世界の内/外という概念に対して非常に自覚的である。
 冒頭の「エッシャー世界」では2次元/3次元という二つの世界。3次元世界を2次元(=絵画)の世界で表現することによって生じたゆがみを描いたエッシャー絵画の世界で、3次元の概念を持ち出すことによって謎を解明するという趣向がとられている。
 「シュレディンガーDOOR」では箱の中/外という概念。不確定性定理を本格ミステリに取り込む手法は竹本健治匣の中の失楽』以降おなじみの手法だが、それをユニークな犯人当てゲームとして用いている。
 「見えない人、宇佐見風」ではテキスト内での作中作といういわゆるメタの概念を描く。この問題はさらに我々読者と作品というテキストの内/外という問題にもつながっていくわけで、今後の本シリーズにおけるメタレベルでの大仕掛けが期待される。
 残りの2作「ゴーレムの檻」「太陽殿のイシス」は密室の内/外とうミステリではもっともオーソドックスな世界を用いながらもその内/外の概念を覆さんとする作者の試みが素晴らしい。

 いずれも本格ミステリに向き合う上での志の高さを感じる作品で、その意味で好印象を抱く。ただし、読み手としての私がその志の高さをどれだけ理解できたかは心もとない。絶対に読み落しがあると思う。