鯨統一郎『あすなろの詩』

あすなろの詩 (角川文庫)

あすなろの詩 (角川文庫)

 2003年10月購入。およそ2年半の放置。甲斐京四郎は大学受験会場で玉岡と出会う。大学入学後、その玉岡の誘いで文芸部<星城文学>を再興することに。かつて存在した<星城文学>には伝説の作家・江川文太郎が在籍しており、文芸誌『あすなろの詩』に作品を寄稿していた。玉岡はその伝説の文芸誌を復刊しようという。京四郎を含め、玉岡の熱意に賛同した者たちは『あすなろの詩』復刊に向けて各々自作を作り上げていく。そしてついに『あすなろの詩』は完成し、記念に合宿がてらの旅行に出かけるのだが、そこに待ち受ける惨劇……

 鯨流の青春小説。主要人物たる大学生たちは恋に悩み、友人の創作の才能に嫉妬したりと、べたべたな青春の苦悩を味わう。それが結局事件の動機につながるわけだが、そのつなげ方に鯨らしさが伺える。とはいえ他作品にみられるチープ感たっぷりの鯨クオリティは本作には不足している。したがって意外にまっとうな作品だ*1。ただ、このメイントリックって前例があるはずなんだけど思い出せない。確か、安吾の『不連続殺人事件』で言及されて多様な気がするんだけど……

*1:鯨作品に限っては「まっとうな」という評価は一概にほめ言葉とは言い切れない。