栗本薫『グイン・サーガ106 ボルボロスの追跡』

 グインの最新刊。失われた記憶を取り戻す手がかりを求めてパロを目指すグインとその一行だが、いまだに目的地パロにはたどり着かない。引っ張るなあ。しかも、強烈な引きがあるわけではないから、読者としては展開の遅さにやきもきすること必至だろう。

 今巻ではグインと風の騎士の間にある取引が成立する。これによってグインとイシュトヴァーンの対立関係が促進されるわけだが、両者の間には戦友として過ごしてきた日々があり、その結果お互いの力を認め合うこととなり、そこには友情よりも深い絆があるはずだ。特にイシュトヴァーンはグインを兄あるいは父の如く慕っている。そんなグインの今回の行動はグインにしてみればやむをえないものだが、イシュトヴァーンにとっては裏切りに等しい――かような展開はこれまでも見られていたが、さらにそれを推し進めるか。
 イシュトヴァーンの心に生じる憎悪や傷心はこの大河シリーズで見られる大きなモチーフの一つで、それはイシュトヴァーンに限らず人間誰しも持ちうる負の感情が、人それぞれさまざまな立場の違いによるいかんともしがたい行き違いが生じることによって増幅していく過程を描いているものでもある。
 イシュトヴァーンは直接登場はしないが、今後を考えるとグインVSイシュトヴァーンという構図がはっきりとする一つのポイントになる巻になるのかもしれない。