鮎川哲也『王を探せ』

 2002年5月購入。3年半の放置。光文社の[鬼貫警部事件簿]傑作群シリーズの一冊。鮎川お得意のアリバイ崩しものだが本作は一風変わっている。本来アリバイ崩しものは容疑者が早い段階で特定してしまう。その容疑者のアリバイを巡る謎が物語の主眼となるからだ。本作においても容疑者は早い段階で判明する。亀取二郎という人物だ。しかし、わかっているのは名前と漠然とした外見的特徴のみ。捜査線上に浮かんできた「亀取二郎」という名前の持ち主は数人。いったいどの「亀取二郎」が犯人なのか?
 アリバイ崩しものを稚気にあふれた方法でフーダニットに仕立て上げた佳品。*1地道なアリバイ捜査に陥って退屈に思う向きも多いアリバイ崩しものだが、この趣向を用いることによってその手の読者の興味を惹きつけることとなった。惜しむらくはタイトルにある「王」のダイイングメッセージのくだりに無理がありすぎる点だ。さすがにこれはちょっと……

*1:この「稚気」というのは鮎川作品においては「達也が笑う」に通ずるものがある。