ダニエル・キイス『タッチ』
- 作者: ダニエルキイス,Daniel Keyes,秋津知子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/12
- メディア: 単行本
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裏表紙のあらすじには「突然の災厄に翻弄される夫婦が経験する、愛の崩壊と再生の軌跡を描きあげた衝撃作」とあるが、本作品の肝はそこにはない。したがってその手の感動系の物語、しかも作者は『アルジャーノンに花束を』のダニエル・キイスだと期待して読むとその期待は大きく裏切られることとなる。
本書で重要なのは本来「被害者」であるはずの夫婦が「加害者」という立場におかれ、つらい仕打ちを受けるという不条理さとそのことによって変容していく二人の心の軌跡である。
例えば、当初は子作りに対してもカウンセリングに従う「現実家」の夫とあくまでも子供は愛の営みによる授かりものだと考える「夢想家」の妻という構図が、事件とその後の妊娠を経て、現実から逃げて彫刻をつくり、世間をひたすら憎む夫とつらい現実を受け止めあくまで子供を生み育てようとする妻というものに変容する。*1
さらに合成ゴムというアイテムが登場する。夫はゴムで作られた彫像の冷たい感触に対して死体を連想する。しかし妻はゴム人形を赤ちゃんに見立てて入浴の練習をする。同じ素材から感じ取るものが夫婦の間では生と死というまったく正反対である。
このように決して感動系の作品ではないのだが、重いテーマを重く扱っているため非常に身につまされる作品であるのは間違いない。
*1:妊娠という形で生まれてくる子供の存在を実感できるか否かという視点で読み解くことも可能かもしれない。