井上雄彦『リアル5』

リアル 5 (ヤングジャンプコミックス)

リアル 5 (ヤングジャンプコミックス)

 井上作品最大の魅力といえば、熱い男の戦う姿を描けることにあると思う。『SLAM DUNK』ではバスケ、『バガボンド』では剣と形は違えどそこに表現されてきたのは戦う男たちであり、その生き様は読んでいると知らず燃えてくる。(裏返せば女性キャラが弱いということにもなるのだが)
 本作において主要登場人物は何と戦っているのか? 答えは明白でそれは「リアル」――すなわち「現実」である。障害者であるという現実は重い。だが、その現実に目をそらさずに生きていくことこそがこの作品における戦いなのだ。だからこそ、そうやって戦ってきたヤマはとりたてて車椅子バスケが上手いわけでもなく障害者であることを除けば平凡な人間であるにもかかわらず、戸川にとってヒーローなのだ。

 では物語内の「リアル」は読者にとってどれだけ「リアル」なものなのか? 残酷な言い方だが読者の大半が健常者であって障害者の「リアル」は「非リアル」なものとして受け止めざるを得ない。ただし、そこに「リアル」を感じさせるのが作者井上のテクニックで、丁寧に描かれたエピソードや台詞の端々に気が配られているし、何よりも主要人物3人の設定の妙がある。
 読者にとってもっとも遠い立場にあるのが障害者の戸川、逆に近いのが健常者の野宮。この二人のカラミで両者の立場の違いを表現している。そして健常者から障害者になってしまった――すなわち野宮側から戸川側に移ってしまったことに苦悩する高橋。人物配置としては絶妙だ。これによって難しいテーマを書く上で読者の興味を引くのに成功した。