桜庭一樹『赤×ピンク』

赤×ピンク (ファミ通文庫)

赤×ピンク (ファミ通文庫)

 躁鬱の激しいまゆ、魅せることに喜びを感じるミーコ、女にモテるが女嫌いの皐月。三人の女性は地下キャットファイトクラブの檻の中で観客にショーファイトを見せている。それぞれが秘めた思いを抱きながら……

 という、いわゆる桜庭一樹お得意の戦う少女(この作品の場合は女性)の物語。作者の描く戦いとはたいてい現実との戦いであり、本作も根底ではその通りなのだが、表面上は実際に戦う。檻に囲まれたリング上で。この閉塞状況を現実世界、つまり、彼女たちの実生活における深刻な問題の比喩と取るのは簡単だ。実際に問題の解決(のようなもの)がみられた女性はキャットファイトを辞めてしまう。だが、はたしてその捕らえ方は正しいのだろうか?
 物語上、彼女ら3人の抱えた深刻な悩みは物語において何らかの癒しを得られるようになっている。ただし、その先は語られない。だが、その時点で登場人物は何らかの幸せを得たと考えてよいはずだ。物語的構造から言えば当然といえば当然なのだが、私は読後に戸惑いを覚えた。なぜなら、戦っている間、問題に解決を得る前の彼女たちが幸せに見える場面があったからだ。具体的には、3人が更衣室でじゃれあうシーンである。
 現実に閉塞感を感じながらも必死に生きていく姿は痛々しい。そしてそれらが解決するシーンにはほっとする。だが、この物語で重要なのはそこに至るまでの過程であって、女性たちの戦う姿にこそに心を動かされるのだ。その過程にある3人の女性の結びつきを「友情」などと言ってしまうととたんに陳腐になるのだが、悩みを抱えつつも「檻」の中で出会った3人の間にはその悩みを吹き飛ばす絆のようなものがあったのだろう。