伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

 2005年4月購入。半年の放置。大金持ちの画廊と不本意ながらも彼に従う画家志奈子、泥棒を生業とする黒澤、神に憧れる河原崎、不倫相手と再婚を企む京子、リストラされて無職の豊田。物語は五つのパートに分かれて進行するが、これらが交錯し、そして意外な展開を迎える――

 作者伊坂はタイトル「ラッシュライフ」の「ラッシュ」にさまざまな意味をこめているが、結局はそのすべての「ラッシュ」を含めた上での「ラッシュライフ」(意味は作品を読めばおのずとわかる)を描くことを意図し、それは成功しているといえる。物語の運び方や、機知に富んだ会話など物語の雰囲気作りも抜群でなるほど今の伊坂ブームはこのあたりに反応したのだなと納得できるのだが、裏を返せば彼の作品は優等生的でありすぎるともいえる。次作以降更なるブレイクを果たす著者のことだから、この手の意地の悪いうがった見方も覆してくれるのか、あるいはその見方を無視できるほどの王道を突き進むのか――読んでのお楽しみだ。