依井貴裕『夜想曲』

夜想曲(ノクターン) (角川文庫)

夜想曲(ノクターン) (角川文庫)

 2001年8月購入。4年以上の放置。俳優の桜木のもとに手紙が送られてきた。そこに記されていたのは先日催された同期会で起きた連続殺人事件の内容を再現するもので、さらには桜木を犯人だと断罪していた。肝心の桜木には当時の記憶はなく、ただ他人の首を絞める、その感触だけが生々しく残っていた。
 著者の依井貴裕は奇術師であの泡坂妻夫の弟子である。そして師の泡坂自身がそうであるように、まことに奇術師らしい考え方に基づいてミステリを描いている。本書で読者に示される謎は、作者がまるで奇術を見せるかのように技巧を凝らして事実を読者の前に不思議に見えるような形で提供している。すなわち観客/読者に何をどのように見せるか、ということを強く意識して作品を構成しているのだ。しばしば本格ミステリと奇術は似ているといわれるが、そのような感覚は見せ方の意識が共通することによって生ずるのだろう。